毎日新聞 2005年11月5日 の記事
【ロサンゼルス國枝すみれ】違法なはずの一夫多妻制が黙認されてきた米ユタ州で、3人の妻を持つ判事の罷免をめぐり、論争が起きている。同州最高裁は90日以内に判断を下す。 ソルトレークトリビューン紙によると、同州ヒルデル在住のウォルター・スティード判事は、トラック運転手だったが、25年前に市議会から任命され、軽犯罪を裁いてきた。判事は65年に第一の妻と結婚したが、妻の実妹2人とも事実婚をしており、計32人の子どもがいるという。 複数婚に反対する団体から情報を受けた州裁判官審査委員会は2年間の調査の末、「判事の行為は司法に対する信頼を揺るがす」として罷免勧告を出した。一方、判事は「一夫一妻制といいつつ、実際は複数の相手と関係するのと、複数婚で実際に複数婚を守るのと、どっちが悪い」などと反論。複数婚は帰属するコミュニティーでは伝統的に認められており、宗教や生活様式の違いは一般法に対する判事としての判断に影響しないと主張している。 ユタ州ヒルデルと隣接するアリゾナ州コロラドシティーは米国最大の複数婚のコミュニティー。モルモン教(本部ソルトレークシティー)は1890年に一夫多妻制を廃止したが、この風習を捨てない一派が同地区に移住している。 モルモン原理主義者の記事である。 クラカワーの「信仰が人を殺すとき」にもあるように、モルモン原理主義者はユタ州の片隅で今もモルモン教団のもっとも尊い教えである一夫多妻を実施している。 本山のモルモンは過去にこの教義を「中断」している。あくまでも中断である。かれらは法に従ってこれを止めたが、神の教えは永遠に変らないので、しかるべきとき(例えば福千年といわれる将来のユートピア時代)に再開されるとしている。 原理主義者たちにはこの「中断」が現世との妥協に映る。彼らは法の上に神の教えがあると信じる。(この考え自体は悪いことではない。道徳は常に法を超えていなければならない。しかし、非道徳的・反道徳的教えは別であることは言うまでもない) 本山のモルモンにしても一夫多妻を「悪いこと」だと反省して。きっぱりと止めたわけではなく、隠れてこっそりと続けていた。当局からの追求厳しく、ようやく止んだのである。 こうした事情も原理主義者たちには妥協に見える。 彼らはユタの片隅、ネバダ、アリゾナとの州境辺りを中心に、当局から手の届きにくいところで、多妻婚を行う。そして、たまたま検挙されるとこのウォルター・スティードのような理屈を述べる。そして、宗教論争に持ち込もうとする。そうなると、どうしても本山のモルモンは旗色が悪くなる。教えとして生きているからだ。それに、ユタに住むモルモン教徒のほとんどが祖先に一夫多妻実施者を持つのである。多妻婚を否定することは自身のルーツの否定になるのだ。 姉妹を妻にしていたと言う点は常識人にとってはびっくりする話しだが、モルモン教の教祖ジョセフ・スミスは母子両方を妻にしていた。原理主義者にすれば、教祖のひそみに倣ったに過ぎないのだ。 モルモン教威勢の良い拡大をアピールしているが、実際は行き詰ってしまっているのである。教えが破綻しつくしてしまっているから、せいぜい蓄財し、現世的な権威を強める以外に道はないのだ。
by garyoan
| 2005-11-07 10:31
| モルモン教
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