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仕事の思い出(4) 「イタリアンブランド P」

イタリア在住のエージェントがいた。日本人だが本場アルプスにあこがれて住みついたと言う。仕事の合間にトレッキングを楽しむという粋人だった。そんな彼が取り扱っていたのは、イタリアのブランドバッグ(主にP)の「平行輸入」だ。
彼が言うにはP社はイタリア各地に下請工場を展開していて、その下請工場にコネがあり、直接商品を引いて来れる、と。確かにブランド品としては信じられないくらい格安であった。
しかし、たとえ工場から直(ちょく)であったとしても、P社の検品も受けない商品が、本物とはいえないだろう。また、不思議なことにこれらにはプラスチック性のギャランティーカードが発行されているのだ。ただ、このギャランティーカードはバッグについて輸入されてくるわけではない。

まず、イタリアからバッグが送られてくる。空輸である。空輸の方が通関が甘いからこれだけは飛行機で来ると言ううわさもあった。インボイス(送り状)には単にバッグとしか記されていない。Pの商品を示す記述はない。もちろん、箱の中身はPのロゴマークの入ったバッグ、財布でいっぱいである。それに前後してギャランティーカードは、別にエアメールでこちらの担当者宛てに送られて来るのだ。
Pが入荷すると、前のVの時と同じような作業が本社で始まる。会議室で商品を振り分けるのだが、これに「ギャランティーカードを入れる」と言うひと手間が増えるわけだ。
そして、各店舗にこの「平行輸入品」は運ばれて行き、信じられない安い値段で陳列されるわけだ。今、思うと安値で売っていたことが、せめてもの慰めである。

さすがに耐久性も低い。壊れると、店に修理を依頼しに来る。そんなことに対応できる体制はない。上層部から言われていたことはこうだ。
 「修理はできない。どんなに古いものでもかまわない。新品と交換しろ。その方が喜ばれる。代替品がないなら、購入価格で返金しろ」と。
たまに店にもって来ずに、正規品取扱店に修理に行かれるお客さんがいる。もちろん、ギャランティーカードも持って。
正規品を取り扱っている方々には一目両全だ。カード自体でも簡単に判別されてしまう。これはP社のものではない。偽ブランド品だと断言され、修理は断られる。怒ったお客様は店に文句を言って来ることになる。店の人間はこう答える。
 「平行輸入品ですから、修理を渋るのでしょう」と。
そして、新品をお渡してその場を収めるのである。
ここで、P社などの高級ブランド品の会社の名誉のために言っておかねばならないが、平行輸入品であっても本物であれば、保証、修理はきっちり対応してくれる。

私が退職して数ヶ月の後、会社のウエッブサイト内のBBSで、ブランドに詳しい人からニセブランド疑惑が指摘され、大問題となった。その方が
 「疑惑を払拭したいならインボイスを公開せよ」
と、至極まっとうな意見を出されたが、会社は当然のようにこれを無視。しばらくしてBBSは閉鎖された。それからいつの間にかPの取り扱いは終了した。
単に自粛したのか、あるいは当局の手が入ったのか、それは分からない。
私も退職してから、思い返して「やはりあれはおかしかった」と気づいて行った。言い訳ではあるが、それだけ仕事は絶対だったのだ。
by garyoan | 2005-12-30 23:14 | 仕事の思い出
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